妥やかに暗喩をほしがる。なだらかに蠢くそれらを駆使する。
(婁絡されないと思っているのに、理屈はいつだって蔓るわ。)
いち世間を縮小した構図に揺られ、わたしは今日も都会の荒波に嚥下されてゆく。
(まるで巨きなクジラのようだ。すべてを享受しながらにして自らもたゆまく。とぷん、とぷん。
よっぽどいい心音だ。)
紅いルージュを悉に主張するのはこの身を迸させた頃から。また神から与された愛に逆らい踵を浮かす。
(摘んだタンポポはみるみる凋んでいくのに、どうしてこの家には花瓶がないの。)
ごめんなさいと言うには、この吻は乾涸びすぎていた。
_優しく騙してください
ある男―この場合はこの心情を吐露す者だが―が彼女の存在を認めたのはいつだろう。ひかりを喰らうかげが詮としてまるきり居るのに、
たとえばそれはまごうことなき何かであると、そう、僅かにひかりを宿した彼女の双眸が告げていた。
けれど彼女は手にしていたものは生憎何かではなくて、完熟トマトをペースト状にした、恐らくヴァンパイアの血といったカクテル。
酸味が少しだけ効いていて、乗せたミントが華奢なグラスに一層映えた。紅鶴を思わせるその容姿は、夏場に彼も呑んだことがある。
一瞥しても頬は紅潮していた。眸は濡つんでいるのかはわからない。俯いているために髪は揺れることなく落ち着いて、角張る背中をひた隠しに
している。ワンピースにジャケット。パステルカラーで染め上げられたそれらは、ふわりとして、じつに春らしい。
足元はストッキングなんて履かない、白い脚。ピンヒールを携えて、きっと颯爽と夜の街を闊歩して来たのだろう。
脚に劣らず、白い腕が伸びる。
その感覚がだんだんと詰まっているのに気付いたのは、バーテンと言葉を交わす度にいくらか呂律が回っていなかった、から。
ただ何をするでもなく咽を焼き胃を焼き、ああ、まるで。
(有り体なひと)
一心に振られるシェイカーを、まるで揺り籠の愛撫のような眼付きで眺めている。ゆらり。いくどか見事な扇形の睫毛がしばたく。
稚さの残りは時折垣間見られる笑窪にある。
突然瓦解するようにして俯いた肩をけれど自分はまだ、喫する術を持ち合わせてはいないのだ。
(だから、だから)
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企画「骨水」さまへたくさんの感謝と愛を込めて。壱茶(090426)